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海江田嗣人の創作童話集 第2回 


文・写真 海江田嗣人会員

なぎさの出来事

 むかしあるところに、恵太という釣りの大好きな農家の若者がいました。しかも、釣り上手で村の人気者でした。
 働き者でもある恵太は毎日、両親の畑仕事を手伝うため、裏山の段々畑に登り、朝早くから茜色の夕焼け空が迫るまで働き続けました。お蔭で作業ははかどり、明日は待望の休みが取れそうです。夕日にキラキラと映える眼下の磯辺を眺めながら「よし、明日は絶好の釣り日和になりそうだ」とつぶやくと、恵太は早くも海の香りや潮騒のざわめきに全身を包まれたような気分になり、胸がはずんでくるのでした。

 まだ暗いうちに起きだすと、釣り竿を肩に村はずれにある渚の岩場へ向かいました。はやる足取りで岩場に着いた頃には、もう、空に瞬いていた星たちも、夜明けの光に吸い込まれ、明けの明星だけがひときわ明るく輝いています。冷たい風がふっと頬をなでます。恵太は岩場のくぼみに身を寄せ、潮目付近めがけて、釣り竿を、天空をなでるようにそっと振り込むと、釣り針の餌が踊りながらボチャンと海に沈んでいきます。岩場に打ち寄せる、丸っこい波や三形波がザブーン、ポチャポチャポチャと渦を作り、無数の水玉がはじけます。赤いウキはゆっくりと沖に流れていきます。

 幾度となく、餌を付け替えては釣竿を振り込み、じーっと、魚が喰いつくのを待ちます。やがて朝の陽光が、だんだんと岩場の周りを照らし始めます。まぶしいばかりの、なぎの海です。「ああ〜 この辺には、まだ魚が来ていないのかな」と、恵太はひとり言をつぶやきながら、眠そうな目で海の中を覗き込みます。

   釣り針の周辺には小さな魚たちが寄ってきていました。チョンチョンと餌をつついては、そっぽを向き、また次にはやって来た小魚の群れは餌の周りではしゃぎ回っているようです。
 すると、その中の一匹がパックと餌に喰い付きました。しかし、ウキはちょっと揺れただけです。しばらく何事も無いような時間が経ち、恵太はおにぎりを食べ始めました。恵太は慌てず、気長に待つつもりです。

 ところが、海の中では小魚が慌てています。小さな体では浮きを引いて潜る力はありません。小魚は釣り針を付けたままぐるぐる回り、もがいています。そこえ一匹のイカがやって来ました。必死に逃げ回る小魚めがけてイカは長い足と吸盤でバシッと抱きつき、小魚の頭に ガブリと噛み付きました。小魚は「助けてー」と、叫んだはずですが、もちろん、恵太には聞こえません。イカは満足そうに小魚を食べながら海深く潜り始めました。しかし、イカがいくら力いっぱい海水を吸い込み急発射して潜ろうとしても、ウキは少し沈むだけです。少し潜ってはまた海面の方に引き戻される有様で、イカは慌てだします。イカの足に突き刺さった釣り針が抜けません。ついに、イカは真っ黒いスミを吐き出し、もがき始めます。

 その様子をさっきからジーツと見つめていた1メートルもある大きなスズキが、今だとばかりに、ゴーッと水しぶきを上げてイカに突進、大きな口でパクッとイカを飲み込み、急旋回して沖に突っ走りました。と、同時に浮きがズボッと海中に沈み、恵太の釣竿がいきなり弓のように円を描き、キーンと張り詰めた糸の音が風を切ります。ズルズルズルと手元の糸が沖をめがけて走ります。

 その時です。満潮の流れに乗って、沖の方から巨大なサメがスーッと近づいて来ました。サメは鋭い嗅覚と耳で、海の中の出来事をすばやく感じると、スズキめがけて大きな牙だらけの口を開けたまま接近、ガブッとスズキに噛み付き、海深くゆうゆうと泳ぎ始めました。ガクーンと、釣竿を握る恵太の手に強烈な衝撃が走ります。一瞬、手から釣竿が離れました。恵太が「しまった!」と叫んでいる間に、釣り竿はガタガタ、スーッと海中に消えていました。

 釣り竿と共に海に落ちていたら、命にかかわる一大事になっていたに違いありません。釣り竿だけですんだのは大変な幸運でした。しかし、海の中で何が起きたか、知る由もない恵太は岩場に座り込んだまま呆然として、海面を見つめていました。

(おわり)

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