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海江田嗣人の創作童話集 第10回 


文:海江田嗣人 絵:海江田鉄郎

ミカン箱のミキちゃん

 もうすぐ小学生になるミキちゃんは一重まぶたが可愛い、寂しがりやの女の子です。近くの空き地まで遊びに行くときは、合わした両手をふくらまして丸く包み、合掌して可愛く首をかしげながら、「お母さん、ね〜え、遊びに行ってもいいでしょ」と、お願いするのです。
 でも、お母さんが機嫌の悪いときは「ダメッ」と、冷たく言います。
 そんな時ミキちゃんは、うつむきながらお母さんの顔を見て涙が出てくるのです。「お母さんのいじわる」と、つぶやきます。
 お父さんは仕事から帰ると、お酒を飲むのが楽しみです。
 しかし、何時も一人で淋しそうでした。
 それは、お母さんが、お父さんにいつもグチばかりこぼして、おいしいお酒が飲めないからです。
 そんな機嫌の悪いお母さんに、遠慮がちにお父さんは「あの〜 お母さん・・・ も少し、お酒いいかな〜」と、お母さんの顔色をみながらたのみます。
 するとお母さんは「毎晩お酒を飲まないでよ オカズの支度も大変だし、お金も無いのだから」、「あぁ〜! 酒臭い」と、お父さんの事を悪者にします。
 お父さんは文句も言わず、淋しそうな足取りで自分の部屋に引き上げるのです。それでも、お酒の好きなお父さんは決して、お母さんを叱ることも無く、何時も優しいお父さんなのです。
 そしてミキちゃんには「ヨシヨシかわいいね」と、ニコニコして可愛がり、頭を撫でてくれるのです。
 
 それからしばらくして、お父さんが家に居なくなりました。
 
 それはミキちゃんが生まれて、可愛い4才のころです。
 もの心が付きはじめたミキちゃんは、おぼろげな記憶でお父さんの事を思い出します。お父さんが居なくなったのはお母さんのせいだと思っています。
 ミキちゃんはいつも「お父さんは何処に居るの」と尋ねるので、お母さんは面倒くさそうに「あんたは拾ってきた子供だからお父さんは居ないの」と、叱るように怒ります。
 お父さんが居なくなってからお母さんのグチはますます多くなり、ミキちゃんにまで、文句を言うようになりました。
 ミキちゃんは「本当に私は捨て子なのかな・・」「大好きなお母さんの子供ではないのかな」と思うようになってくるのです。
 そんな、ある時、台所のそばに立ち、ぼんやりと空をながめていたミキちゃんが突然、「ネーお母さん、ミキちゃんの製造元はどこなの?」と、尋ねました。突然の言葉にびっくりしたお母さんはミキちゃんを振り向きます。
「どうしてそんなことを聞くの?」と、ミキちゃんの前に座り、顔を見上げます。そしてお母さんは言います、「みきちゃんはお母さんから生まれたのよ、だからお母さんの子でしょ」。お母さんの顔が少しこわばっています。
「だって拾って来たのでしょ ミキは捨て子なんだから」。
 お母さんは先日の言葉を後悔して次の言葉もありません。
 しばらくミキちゃんは考えていましたが、「でも、お父さんがいないから、ほんとうはミカン箱から生まれたのでしょう?」と、勝手に言います。
 お母さんはまたまたびっくりです。
「どうしてミカン箱なの」と、お母さんは不思議がります。
「だって、おともだちが、お父さんとお母さんのいない子は、お菓子と同じように工場で作られたのだよ」、「いらない子はミカン箱に入れて捨てられるの」と、ミキちゃんは話します。
「ちがいます」。心配そうに、お母さんはそんな事はないよと、ミキちゃんの両腕を優しくなでます。
 ミキちゃんは少し笑顔を見せますが、「だってミキちゃんはみかん畑で生まれてミカン箱で捨てられたの」と、言い返します。
 幾度となく、「お父さんは何所にいるの」と尋ねるミキちゃんに
「あんたは捨て子」、「大きくなったら解るのよ」と、うるさく突き放していた事をお母さんは後悔します。
 さあー、お母さんはとても心配になりました。
 ミキちゃんに、お父さんが家出したとは言えず、お父さんは遠いところに行き、そこで働いているのよと、お母さんはなかなか本当の事を話せませんでした。何時かは本当の事を話さないと思いながら、お父さんを邪魔者扱いに冷たくしたお母さんは話せなく、反省と後悔で胸が熱く騒ぎます。
 しかし、お母さんの言葉に、ミキちゃんは、だんだん反抗するようになります。
 ある日、空き地の砂場で、お母さんのこしらえたオニギリを食べずに、ごま塩のようにどろ砂でまぶして、お弁当箱に戻し、それを家に持ち帰ると台所に投げ込みました。
 それを見たお母さんは仰天、「ミキちゃん!」と絶句。台所の板間にヘナヘナと座り込んでしましました。「あ〜 私が悪いのだわ、お父さんが居ないとダメだわ」、お父さんの優しさが今になって身にしみるお母さんは、文句も言わないお父さんを、すき勝手に叱り付け、冷たい態度でお父さんに優しくせず、邪魔者扱いしてきた事を詫びて泣き、止め処も無く涙が頬を伝わり止まりません。
 

 もうすぐ春です。ミキちゃんは、小学校の入学式を迎えます。
 お母さんはミキちゃんをありったけ可愛く見せてリボンを付けたり、新しい靴と服でピカピカに飾るのです。
 入学式の日、小学校の教室で、お母さんは先生の話を聞きながら目だけをキョロキョロよそ見します。
 みんなは楽しくおしゃべりしている中で、お母さんの顔は何だか心配そうです。
 廊下の向こうの校庭を見つめたり、なんとなく後ろを振り向いたり、落ち着かない様子で、先生の説明もあまり良く聞えていないようです。
「ねぇねぇ お母さん」と、ミキちゃんがお母さんの手をつかみます。
「今度は隣の教室に行くのだよ」、ミキちゃんの言葉にお母さんは、ふと我に帰ります。
 きれいな景色の田舎道、二人は小川沿いの細道を歩きながら「お腹空いたね  帰ったら うんとご馳走をつくり、夕ごはんにしようね」、「今日はミキちゃんの入学祝いだね」と、お母さんが言いました、ミキちゃんは、「うん」と言っただけ、段々畑を上がりながら、空の青さが目に入ります。
 山からの風が森の香りを運んできます。
「今日はお祝いだからお菓子も買って帰ろうね、いっぱい買って帰ろうね」お母さんは、家の近くのばあちゃんのお店に入ると、ミキちゃんと二人で、沢山のお菓子を選びます。
 ばあちゃんが心配して、「ミキちゃん、虫歯になるよ。歯磨きしなさいね」。
 ミキちゃんはうれしくなり「ばあちゃん、歯磨きするね」と元気に返事します。
 二人はだんだんお家が近くなると急ぎ足になりました。
「アレッ、お隣はお客さんだね」と、お母さんが言います。
 じいさん一人の家から笑い声が響きます。
 玄関の鍵を開けるとミキちゃんは、いつもより元気良く「ただいまー」と言いながら、お母さんより先に、部屋へ走って行きます。
 お母さんは玄関を閉めようと振り向きました、すると、そこには懐かしく、見慣れた顔がありました。お父さんです。
 帰ってきたお父さんは、となりのじいさんの家でミキちゃんたちを待っていたのでした。
 そして、トントントンと走り、ミキちゃんは、お菓子をとりに玄関に引き返した時、そこにはお父さんが居たのです。
 突然現れたお父さんに、ミキちゃんは「お父ちゃん・・ですか」と、泣きべそに目がうるみ、「ミキちゃんおいで」と、お父さんが言うと「わーん お父ちゃん」と言いながらお父さんの足に抱きつき、ミキちゃんは思いっきり甘えて大きな声で泣いたのでした。
 お父さんは、すまなそうな声で、「ごめん悪かった」「電話をありがとう」と言います。
 お母さんは、「ごめんなさい 私の方が悪かったのよ」。
 お母さんとお父さんは、しばらく声になりません。二人は涙で目が潤みます。
 ミキちゃんは、「ミカン箱はお父さんとお母さんだったのだ」と、思いました。
 お父さんの手には赤いランドセルが光っています。
 そうです、入学式の前日お母さんは、いつまでも怒ってばかりで、意地を張っていたら幸せになれないと思い、お父さんに電話して「もしもし お父さん」「ミキは一年生になるのよ」と、話し電話を切ったのです、それが、お父さんに帰る勇気を与えたのです。
 それからは親子仲良く三人で、楽しい日を送るのでした。

(おわり)

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